糸もみじのブログ

シャニマスの感想。

【国道沿いに、憶光年】を読んだ今、「浅倉透の変化と漸進」を思う(W.I.N.G.~G.R.A.D.)

 こんにちは!糸もみじです。

今回は浅倉透さん*1(以下、透)がアイドルを始めてから【国道沿いに、憶光年】に至るまでに描いた変化を振り返っていこうと思います。

さて、タイトルに「振り返る」と書きましたが、実際にすべてのコミュの話をすると気の遠い文章量になりますから、今回は対象を次の4つに絞っています。

※タイトルの通り、【国道沿いに、憶光年】の話は別の機会にしたいと思います。

これら4つを選んだのは、透の感性や意思の変化に強く作用した活動が描かれていると感じているためです。

 

 

 

※ここからは選んだコミュの内容に関わる話をしています。前情報なしで読みたい方は避けてください。

 

 

 

 透の変化を見ていく前に、おおまかに上で挙げた4つのコミュと【国道沿いに、憶光年】の関係を整理しようと思います。

※イメージ図です。

W.I.N.G.の頃とLanding Point*2から【国道沿いに、憶光年】にかけての透を比べると、アイドルに取り組む姿勢や透自身のものの考え方はずいぶん変わっています。プロデューサーがその変化に言及する場面もあるくらいです。

ここからの文章では、選んだ4つのコミュそれぞれにおいて透が描いた変化を追っていきます。

 

W.I.N.G.

 283プロのアイドルが事務所に所属し、新人アイドルの登竜門とされる大会‟W.I.N.G.”で優勝するまでの過程が描かれるシャニマス最初の個人シナリオです。

透のシナリオはプロデューサーとの出会いとアイドルとしての日々、これからの目標の3つを中心に展開され、中でも強調されるのが「のぼる」ことです。

小さい頃からよく見るというジャングルジムをのぼる夢、一緒にのぼることへの思い。

 

透の「のぼる」ことへのこだわりはどのような経緯で強くなっていったのでしょう?

 

 W.I.N.G.優勝後、透はプロデューサーに以前一度会ったことがあると明かします。*3

その日は透がバス待ちのプロデューサーに話しかけたのをきっかけに、バス停近くの公園で一緒にジャングルジムをのぼりました。

なかなかてっぺんにつけなかったジャングルジム。それを一生懸命にのぼって、2人でてっぺんに座ったこと。そこで感じた「一緒にのぼる嬉しさ」が彼女の原体験になっているように思います。

「のぼる」「頑張る」という言葉にこだわりを見せる彼女。

透がジャングルジムの夢を見るようになったのはこの出来事より前ですから、彼女はプロデューサーと出会う前から上昇志向を持っていたのかもしれません。

ただ、【10個、光】で見られたように、そこに具体的目標は伴っていませんでした。

透の「のぼりたい」気持ちは、プロデューサーとの出来事や繰り返し見る夢に影響を受け、少しずつ強まっていったと思われます。

 続いてW.I.N.G.で感じた透の変化について見ていきましょう。

 はじめの頃の透は口癖のように「人生、長いなー」と話しており、なんとも所在なげでした。しかし、W.I.N.G.の後半には「最近 思ってたよりは、人生短いのかもって感じる」と言うようになりました。

まずはこの変化について見ていきます。

上のスライドは左側にコミュ2「人生」、右側にコミュ5「ちゃんとやるから」の内容を置き、それぞれの対応箇所を同じ列においたものです。

「それでこう思う」「だからかな」の前後の変化に注目します。

透にとってジャングルジムは上の見えないものからてっぺんに近づいている感触を覚えられるものに、長いと感じていた人生は短さを感じられるものになっています。

これはつまり、踏み出そうにも次の一歩を踏み出せずにいた状態から、踏み出して一歩一歩のぼっている実感を持てる状態への変化だととらえています。

さらに、敗退時のやり取りでも印象深い発言が目立ちます。

W.I.N.G.本戦に出られなかった時は

「ああ、ダメなんかじゃない わりといい顔してるぞ」

「……ふふっ うん。私も……ダメって感じはしないよ」

「なんか、どっちかっていうと これからいいこと始まるって感じ」

好感触を受け、結果を前向きにとらえている様子がうかがえます。

W.I.N.G.決勝で敗れた際、悔しいと話すプロデューサーに透が尋ねた言葉も印象的です。

「……ね 悔しいって、嬉しいこと?」

「のぼってて増えるのは嬉しいことなんでしょ」

「そういう気持ち、今」

透がどういう気持ちかを知るために、2人の気持ちを並べてみます。

プロデューサー:悔しい気持ち

透:「のぼってて増えるのは嬉しいことなんでしょ」という気持ち

透は「悔しいって、嬉しいこと?」と尋ねています。のぼっている実感や悔しいという感覚を抱けたことが彼女を嬉しくさせたのではないでしょうか。

 

10個、光】

 透をプロデュースできるようになったのは2020年4月です。そして、このプロデュースカードは1か月後の5月にリリースされました。固有コミュのない「白いツバサ」を除けば、はじめてのプロデュースカードともいえます。

今回は「一生のうちにやりたい10のこと」とTrue Endの内容に注目します。

「一生のうちにやりたい10のこと」はアンケート記事の質問で、このカードのテーマになっています。はじめに透が挙げたのは「いっぱい寝る」「映画とか観る」「ブラウス欲しい」と、どれも「今やりたいこと」でした。結局はじめのコミュで回答はひとつも埋まらず、「この質問の答えを見つけること」と言って、アンケートは持ち帰りになりました。

 

 True End「いつか」で透は「一生のうちにやりたい10のこと」を1つ挙げます。

それは、時間がたつにつれ別の星と混じってわからなくなった一番星をいつか見つけること。

ここで透がやりたいことに挙げた「さっきの星、見つけるって」と「この質問の答えを見つけること」の2つを比べても、「(今は見つからないけど)いつか でも、見つけられる」という姿勢自体は変わっていません。

 

一度各コミュのタイトルを見てみましょう。「一生のうちにやりたい10のこと」について話す一連のコミュには、カード名【10個、光】にちなんだタイトルがつけられています。

これらはカード名にある10個の光と「一生のうちにやりたい10のこと」のどちらをも意識したタイトルだと思っています。

 透にとって普段も光ってるけど見つからない「さっきの星」を見つけることは、「普段思ってても出てこない」「一生のうちにやりたい10のこと」を見つけることではないでしょうか。透にとって人生の大きなテーマができた、そんなきっかけになるアンケートだったと思っています。

 

【途方もない午後】

 2020年の7月にリリースされたこのカードでは、透の感情が強く表れる出来事が描かれています。特にG.R.A.D.で透の印象が変わった人に読んでほしいコミュです。

透は各所で「いい!」と褒められており、スタッフ受けのよさがうかがえます。ただ、そんな状況への不満からか、透は3つ目のコミュで自身を否定する言葉を放ちます。

プロデューサーは透の話を聞き、自分は「いい」と思っていると伝えたうえで「いいか悪いか、もうちょっとあとで決めよう」と透に提案しました。

「『よくない』っていうのはさ 『いいもの』が見えてる……ってことだよな」

「『いいもの』が見えてなきゃ『よくない』って、言えないだろ?」とプロデューサーは聞きましたが、透は自分に『いいもの』(こうありたいという姿?)が見えているかはわかっていないようでした。

ところで、このコミュのタイトルは「所感:頑張ろうな」です。「所感」はその時々に何かに触発されて抱いた感想、日誌・日報における意見の意味合いもあります。この日の日誌にプロデューサーが「頑張ろうな」とコメントしたと考えるのが好きです。

 自身の現状に対する評価と周囲の評価の差に複雑な思いを抱く透。その思いに決着をつけるのがG.R.A.D.です。

 

G.R.A.D.

 G.R.A.D.はアイドル個々人で参加する公開オーディション形式の番組で、個人でのPR活動の場、個人としての力を試す場になっています。*4

 【途方もない午後】のコミュ3で描かれたように、透は自己評価と周囲の評価のギャップを抱えていました。そんな彼女のギャップへの考え方が大きく変化したのがこのG.R.A.D.です。

 コミュの序盤、透はツイスタ(シャニマス内のSNS)で話題になったのを機に仕事が増えます。プロデューサーは急な環境の変化を心配しますが、当の本人は心配無用と言わんばかりに「楽勝だから」と口にするのです。

この発言を受けた私は、透がアイドル初日の挨拶回りで話していたことを思い出しました。

【途方もない午後】やG.R.A.D.を見てから振り返ると、ここの落胆はそれなりに大きかったと想像されます。

活動初日、本来透から挨拶して覚えてもらうところ、逆に先方から挨拶されての発言です。

加えて今回は楽勝発言です。

結局、G.R.A.D.の頃の透は必死にならなくても「けっこうやれる(通用する)」状態だったのでしょう。ちゃんとやるようお叱りを受けそうな場面もたくさんありましたが、結局話題になったりその場が盛り上がったりして咎められなかったのかもしれません。

 ところが、「楽勝だから」と言った次のコミュで透はダンスの講師に注意を受け、レッスン半ばにして帰されてしまいます。見かねたダンス講師からは、透は指示を守らず返事も曖昧で、「難しいんじゃないか」と報告の連絡が届きます。

レッスンを切り上げられた透は、ダンス講師の「河原コース100周してから出直しなさい」という言葉を素直に受け取って河原を走っていました。

河原を走っている間、透はミジンコの心臓について考えていました。

 

「ミジンコには、心臓があるか」

「その心臓は 真面目に動いているか」

「100周したら わかりますか」

ここである疑問が湧きます。もし文字通りミジンコの心臓について知りたいならば、河原を100周したところでわかるはずがないのです。

したがって、透が考えていたのはミジンコの心臓ではなく、自分自身の心、あるいは心臓のことではないでしょうか。はじめの2つの言葉は、胸の高鳴らない日々を過ごし、「ちゃんとやれ」と言われる自分自身に向けたものではないでしょうか。

 

 G.R.A.D.で優勝した後、透はプロデューサーが買ってきた顕微鏡でミジンコを観察します。

「つかみましたから 100周、走って 彼女は、彼女の心を」

ミジンコを見た透は、激しく心臓を脈打たせて生きる姿にたいへん感動した様子でした。ミジンコの心拍数は1分あたり200~300回ですから、その動きは「真面目に動いているか」どころの話ではありません。

透の受けた衝撃は相当なものだったでしょう。

 周囲の評価と自身の理想にギャップを抱えていた透。そんな彼女が「いいや、私 どんな形したのが、私って思われても」と思えるようになったのは、真面目に心臓を動かしているかもわからなかったミジンコの、激しく心臓を動かして生きる姿に感化されたからだと考えています。

 ミジンコの大きさは通常2~3mmで、意識して観察しない限りは日々の生活や外出先でその姿かたちを捉えることはありません。ミジンコの心臓についてはさらに意識して観察しなければなりません。

透はミジンコの生きる姿を通じて、誰にどう見られていようとも懸命に生きる姿の美しさをあらためて見つけたのではないでしょうか。

 

www2.nhk.or.jp

心臓の動きも見られます。けっこういい動画です。

 

おわりに

  透は一見つかみどころがないように映るところもあります。しかし、G.R.A.D.の最後に見せたように、胸の中に熱い気持ちをもった人です。4つめのシナリオコミュ、Landing Pointでもそんな一面が見られます。

 

【国道沿いに、憶光年】では、これまでの歩みからさらに前進した姿を見ることができます。ぜひ透の熱い思い、その鼓動に耳を傾けてみてください。