糸もみじのブログ

シャニマスの感想。

浅倉透のG.R.A.D.までを振り返る

はじめに

 2021年4月20日、ノクチルのG.R.A.D.シナリオがリリースされました。G.R.A.D.シナリオでは個人で参加する公開オーディションを通じ、アイドルたちの変化や軸が描かれてきました。
 透はこれまで基本的にゆったりとした雰囲気のコミュが多かったのもあり、個人の内面に切り込んだ内容も多いG.R.A.D.でどのような姿を見られるのかと非常に楽しみにしていました。当日突如リリースされた【つづく、】でめちゃくちゃになるのですが…G.R.A.D.の時期に彼女が見せてくれた姿は、これまでの歩みを踏まえた大変感慨深く、素晴らしいものでした。今回は2つのテーマを中心に、透のG.R.A.D.までの足取りを振り返っていきます。

本題の前に、今回の内容を書くうえで直接参考としたコミュを明記しておきます。
◯シナリオ
 W.I.N.G.
 G.R.A.D.
●Pカード
【10個、光】
【途方もない午後】

結末や核心となりうる箇所にも触れていきますから、これ以降はそのつもりで読んでいただければと思います。
なお、今回のテーマ上、感謝祭、【まわるものについて】及び【つづく、】には触れていません。イベントコミュとsカードについても同様です。

頑張ることについて
W.I.N.G 「ちゃんとやるから」より

 頑張ること。これはG.R.A.D.に限ってではなく、W.I.N.G.からずっと続いているテーマだと感じています。プロデューサーとのコミュニケーションのために始めた日誌や、「頑張るから」と伝えてくれる様子からは、頑張ることへの意欲自体はあるようにみえます。進んでいる実感への嬉しさに目を輝かせるような一面もそうした印象を受けたところです。目標が明確に定まらないながらも向上心ははっきりと持っていたり、クールに見えながら表情やしぐさに感情が出るところは彼女の魅力だと思っています。

W.I.N.G 「嬉しいってこと」より

 プロデューサーとの出会いやアイドルを特別と思っていたことなど、言わば非日常への挑戦のような思いを抱えてアイドルを始めますが、G.R.A.D.に至るまでの彼女の活動は特に試練や壁にぶつかることなく淡々と進んでいきます。
 アイドル活動初日の透は、関係者から挨拶されたりディレクターから好評だったことから「けっこうやれるもんなんだね」と話します。この時、「そんな甘いもんじゃないぞ」と伝えると「じゃないと人生長すぎるよね」と返ってくるのは印象的です。これ以外にもスタッフからの評判がよさそうな様子はあちこちで確認できます。
・スタッフから大量の差し入れ【途方もない午後】
・あちこちでいいと褒められる【途方もない午後】
・何でもないようなことがウケる(G.R.A.D.) など。
彼女の『透明感あふれる佇まいには誰をも惹きつけるオーラ』がそうさせるのか、言ってみれば素人同然の状態でも関係者から一目置かれていることがわかります。初日時点で透は学校と変わんない、人生長すぎると退屈そうな様子を見せていました。

 G.R.A.D.ではSNS投稿に写り込んだことをきっかけに仕事が増え、その中で透の心境も変わっていきます。普段より増えた仕事の量に心配の言葉をかけた際、透は「いいってこと?請けない方が」とやや不満げな口調で返してきます。この態度の理由は、すぐ後の透の言葉でわかります。

G.R.A.D. 「息してるだけ」より

心配されるほどやってないと言うように、彼女はこれまで楽勝で活動していたことがわかります。
「大丈夫って、言ってよ」という言葉からも、心配するプロデューサーへの不満が表れているようにみえます。
 ちょうどG.R.A.D.と同時期に透はクラス委員長から朗読を頼まれています。委員長は学年2位と学業で成績を残していて、透は彼女と話すことで結果を出すための努力や苦労について知ります。委員長と自身を比べたとき、透はしんどくなるまで努力したことはなく、そのくせ一定の評価は返ってくるような状況でした。G.R.A.D.予選突破後にはプロデューサーに対し自身の頑張りや評価について確認するかのようなやり取りをします。偉い、すごい、頑張ったの3つについて聞いてきます。頑張ったに関してプロデューサーの返答まで少し間があったのは事実ですが、3つとも返したのは肯定の言葉でした。
しかし、透自身は実際にはまだ頑張ってはいないため、肯定の言葉にも喜びの感情や納得感はないように見えました。苦労せずともそれなりに結果が出て、偉くて凄くて頑張ったことになるなら頑張っても関係ないかもと思うのも理解できます。
 【途方もない午後】では、口を揃えて「いい」と褒められることに疑問をもち、自身に対しても「いいかな、なんか」と否定的な物言いをしましたが、この時のいい悪い問題も未解決なんですよね。自身の努力と周囲からの評価の乖離がついに決定的な開きになっていきます。

「周囲からどう見られるかということを気にせず、おおらかでマイペース」*1という彼女ですが、他人の中に自身が何者かとして存在することについては認識がありそうです。G.R.A.D.では頑張ることに焦点があたるのですが、周囲からの評価を通じて透に翳りが生じます。

G.R.A.D.「息したいだけ」より

透は周囲から評価されるために行動するタイプではないと思うのですが、そのスタイルの人が努力せず評価を得られるなら、確かにもうそれでいいじゃん、と思うかもしれませんね。
頑張らなくていい、という話からはイルミネ感謝祭を連想しますが、透が彼女達ほど明確に頑張りたい理由を持てていないところにあるのかもしれません。
 一方で、透自身に向上心がないわけではないというのは明記しておきたいところです。人生/ジャングルジムをのぼっていくこと、10個のやりたいこと、“いい”に関する所感…彼女の“もっと”は随所で感じることができます。

つかんだのは誰でもない私

 2020年6月末にリリースされた【途方もない午後】にはこんなやり取りもあります。

【途方もない午後】より

17歳になりアイドルを始めた透は、他人から見える浅倉透像についてある程度理解しているようです。
周囲からの“浅倉透”への評価に戸惑い、一度は立ち止まりそうになる透でしたが、彼女の背中を押してくれたのは委員長の原稿と、プロデューサーと訪れた干潟での体験でした。

G.R.A.D.「息したいだけ」より 名前のないただの命に戻れる場所

命が生まれる場所である汽水域、干潟。生まれたての命はまだ何者かも定義付けされていないため、他者からの評価や評判とは無縁の場所にいます。そんな命が生まれ、連鎖する場所を訪れたことで、透自身も誰かの定義ではない「名前のないただの命」に戻る体験をし、自分自身の気持ちに素直に生きる理由をはっきりと見つけることができたようです。

G.R.A.D. 「泥の中」より

 透がアイドルを始めた経緯にはプロデューサーとの出会いが濃く絡んでいますが、それを含めて、退屈な日常から抜け出しての新たな挑戦や心躍るような体験をしたい思いがあったと考えています。そして、G.R.A.D.の時期に体験した出来事を通じて透は自身の気持ちをはっきりと自覚できたように思います。頑張れているかどうか、今の自分がいいかよくないかを透自身で決められるようになった心構えの変化は今後の活動と人生において非常に大切なことだと思っています。

おわりに

 透のG.R.A.D.はやっとここまでたどりつけた…!とはしゃいでしまうような嬉しい内容でした。一度は立ち止まりそうになりながらも、心躍る体験を通じて「どきどきしたい」自身の思いを見つけて走り出した透。やりたいことの手がかりを見つけて自身の意志を確立できたという意味では、これまでの集大成なんですよね。透はジャングルジムの夢にしろ人生の話にしろ、目標や理想が無かったわけではなかったと思うんです。ただ、それを言葉にするにはあまりに曖昧で、自身もその正体をつかみきれていなかったんじゃないでしょうか。その曖昧だった部分が今回の諸々の体験を経て「どきどきしたい」というシンプルな言葉に繋がったんです。アイドルを始めた大元の理由も「どきどきしたい」という気持ちにあったのかもしれません。
staticeの行きたい場所を その理由を 心が見つけたからにも心から頷けるような思いです。自分の心をつかみ、生まれ変わって走り出した透の行く先が本当に楽しみです。


 余談ですが、この文章を書いて2日後にVOY@GERを聴き感謝を捧げていました(?) 歌詞にボーカルの力が釣り合わないと説得力に問題が出ると思うんですが、この曲を歌えるところまでは来られたんじゃないかと思っています。

溢れだした胸の鼓動の加速装置に乗って 星屑みたいな可能性から星座を繋いだ道標 迷いも不安も今はないよ 振り返る輝跡
G.R.A.D.を思い返して聴くこの歌詞がそれはもうよくて…透の今後を心から楽しみにしています。